■夢 「俺の夢はさァ」 また始まった。 夜の甲板。毎夜繰り広げられるバカ騒ぎ。 コックが酔って饒舌になると、決まって始まるこの台詞。 ウソップは半ば諦めながら、結末までを正確に諳んじている話題に相槌を打ってやる。 「もちろんオールブルーを見つけることだけどよォ」 「あー」 「それは大前提のことでよォ」 「へー」 「オールブルーに一番近い島で、店を開いてよォ」 「海を見下ろせる小高い丘の上に、だろ?」 「よく知ってんなァ!愛を感じるぜ」 「や、お前が言ってたんだろ」 「そーだっけ?まぁよぅ、小さくてもキレイで、温かくて明るい店でよ」 「ハイハイ」 「町の住人からも、あの店は5つ星だって噂の店にしてよォ」 「あー」 「けど味の割には値段は安くて、誰でも気軽に立ち寄れる、なんかもうスゲェ優良店よ」 「お、このゴボウ揚げ美味いな」 「当たっり前だろ…でよぅ、俺は美貌と料理の腕に似合わぬ気さくな料理長で、みんなに慕われてよぅ」 「足と口さえ封印しておけばな」 「当然、町で一番のステキなレディをお嫁に貰っちゃったりなんかして」 「おーいルフィ、んなとこで寝るなー」 「これがまた、美人でスタイルもよくて、おまけに気立てが良くってよォ…もうメロメロよ」 「チョッパー、毛布持ってこい毛布。船長が腹壊すぞ」 「働き者で、家の中はいつもピカピカでよ…けどお料理だけは、アナタに敵わないの、とか言っちゃってよー。もう可愛いのなんのって」 「ナミ、パンツ見えてんぞー…ふご!殴ることねェだろ!親切で言ってやったのに!」 「ふたりで慎ましくも幸せに暮らしてよぅ…そのうちベイビーの誕生よ。金髪で青い目。それは俺似なんだけどー、全体的には奥さんに似た、絶世のレディがいいなァ…」 「痛ててて…ロビンー!笑ってないで、この魔女に何とか言ってやってくれよー」 「あたしパパのお嫁さんになりたい!とか言っちゃうわけだな、俺のベイビー…。俺は笑って、奥さんの肩を抱き、そしてベイビーの髪を優しく撫でるんだァ…」 「…ったくよう…あー、俺も何か眠くなってきた」 「そして俺がいつか死ぬ時には、傍らに愛するレディと、ベイビーと。大勢の孫に囲まれて…愛されて愛されて、微笑んで逝くのさ…」 「つーかさ、サンジ」 「そして俺の亡骸は、愛したオールブルーに水葬されて…自然に還るのさ…」 「その夢の中で、今現在お前の膝で熟睡こいてるマリモはどうなってるわけ」 「泣くな、愛するレディたち…俺はキミたちに会えて幸せだったよ…」 入り込んで涙目のコックは、遠くを見詰めながら微笑む。 まだ見ぬオールブルーと、愛する家族。 そしてコックの右の手は、優しくマリモを撫で続けていた。 ■決意 甲板にひっそりと落ちていた、金の糸を拾い上げる。 こうしてその糸を発見しては、大切に腹巻に仕舞うのが、最近の俺の習慣だ。 それは細く頼りなく、風に煽られ身を揺らす。 太陽に翳せば、その光を吸収して、キラキラ、キラキラ。 俺はこれを、確かに愛している。 陽に透けるその色は、優しくそして暖かく。 あの男の、性質そのもの。 その男の一部だった糸は、胸に迫るほど愛しい。 ああ、ここにも。 よく見れば、あそこにも。 そこかしこに落ちている。 輝くことで、控えめな自己主張を示す糸。 アイツの髪。 まるで俺に、見つけられたがっているように。 なァ、コック。 俺は確かに、お前の髪を愛しちゃいるが。 たとえお前がハゲたって、その気持ちに変りはねェ。 だから気にせず。 抜け毛を落とせ。 ■仲間 鉢植えをひとつ、育てていた。 毎朝起きたら水をやり、ひっそりと、でも誇らしげに、薄紅の花を咲かせていた鉢植え。 シンクの上に、いつもちょこんと乗っていて、俺が料理したり、洗い物をする姿を、静かに見つめていた。 酒屋の女将さんがオマケにくれた、名も知らぬ花。 随分と長い間、一緒に航海をした。 当たり前のようにキッチンの風景に馴染んで、水をやれば嬉しそうに身を揺らして。 その花がここにあったことなんて、きっと俺以外には気付きもしない、小さな、小さな。 その鉢植えは、今はもうない。 枯れて、海へ還ってしまった。 原因はよく分からなくて、ある朝ふと目に留めてみたら、薄紅の花は落ち、茎が哀しげに項垂れて。 そのまま、次第に色褪せて、逝ってしまった。 俺は思いの外悲しくて、少しだけ、あの鉢植えのために泣いた。 いつの間にかあの花は、俺の心にも根付いていて。 誰もいないキッチンで、誰も気付かないだろう、その小さな命を弔った。 トントンと包丁を鳴らせば、一緒になって揺れていた。 晴れた日には、恋しそうに窓の外を向いていた。 海へ還したとき、ポチャンと小さな音を立てて。 最期まで、誰にも気付かれず。 けれど、確かに。 あの小さな命は、この船の仲間だった。 鉢植えをひとつ、育てていた。 今はもう、ない。 ■作戦 暗い牢屋にマリモとふたり。 何だってこんなコトに。 寒いし狭いし、何か臭ェし。 喋ろうにも相手が相手だし、詰まらないことこの上ない。 口をつくのは溜息ばかり。 あーあ、バカバカしいことになっちまった。 特に耐えられねェのは、一日に2度運ばれてくる、クソ不味いメシだ。 何をどう使ったら、こんな味が出せるのか。ある意味知りてェくらいだ。 スープに入れられた、申し訳程度のキャベツが可哀相でならない。 俺だったら、極上のスープに仕立ててやれたのに、な。 今度生まれ変わったら、俺のところにお嫁に来なよ。 綺麗に飾り付けて、じっくり煮込んで。 最高の幸せを、キミにあげるよ。 「オイ」 そしてキミは、人生(キャベツ生?)で一番ステキな姿で、豪奢な皿に収まるのさ。 銀のスプーンで擽れば、恥ずかしそうに黄金色のスープの中で、身を揺らすのさ。 「オイ、クソコック」 だからごめんね。 今は黙って大人しく、このクソ不味いスープで我慢して。 俺が残さず食べてあげる。 不味いスープの中でもホラ、キミの瑞々しさは隠せやしないよ。 「オイ、現実逃避すんな!」 「ア?いたのかテメェ」 「いるわ!」 見れば、マリモのスープ皿もすでに空っぽだ。 可哀相に、マリモに食われちゃ成仏できねェ。 今度からスープに入ってるキャベツは、全部俺が頂こう。 「そろそろ脱出しようぜ。もうウンザリだ」 「どうやって。テメェ刀まで取られてんじゃねェか」 「どうやってもクソもあるか。俺とテメェで、作戦なんて必要あるか?」 そりゃそうだ。 こんなカビ臭ェところは、俺もウンザリだ。 「メシが、耐えられねェ」 「ハッ、マリモのクセに生意気な」 「早く、テメェのメシを食わせろ」 アラアラそれは。 俺のハートを奪い取る、マリモ流の作戦ですか? 「テメェのメシが食いてェ」 マリモは案外、策略者だ。 こと俺のハートに関しちゃ、な。 「よし、行くぞ」 「クソ美味ェメシ、食わせてやるよ」 「ああ、頼む」 俺のハートは、マリモの巧妙な作戦に、もうメロメロさ。 愛しいキャベツ。 帰ったら、このマリモのために、美味しいスープになってやってくれないかい? ■笑顔 GM号に、最初にジャンケンを持ち込んだのはウソップである。 彼が仲間に加わるまでは、順番、食料、発言権など、全ては力に任せた奪い合い、という有様だった。 力関係は単純明快で、ほぼナミの独裁状況だったと言って過言ではない。 時にルフィも我を張ったが、往々にしてナミの鉄拳制裁の餌食となり、引き差がざるを得ない。 そしてナミが絡まない事柄に関しては、ルフィとゾロの一騎打ちとなり、力と力のぶつかり合いとなった。 まさに、弱肉強食の無法地帯。 その悪しき習慣に恐れをなしたウソップは、己の保身と生活のために、ジャンケンを提案したのだ。 狭い船上での集団生活。 全ては平等でなければ、いつか破綻をきたす。主に、ウソップ自身が。 そんなわけで、GM号にはジャンケンが定着した。 無論、船長の権限や、航海士の提言などは尊重されたままで。 その後も、仲間が増えるたび、ウソップはジャンケンについてレクチャーし、理解と協力を求めた。 女性至上主義のコックは渋ったが、野郎連中での揉め事に限って、と承諾した。 公平と平等を重んじる王女も、二つ返事で了解した。 しかし。 旅が進み、ドラム島を出た晩に、事件は起こる。 新しく加わったばかりの船医は、トナカイだ。 硬い蹄は、とても器用に動くのだけれど。 如何せん、チョキしか出せない。デフォルトでチョキなのだ。 宴の後の見張り番を決めるジャンケンで。 チョッパーは、たった1発で、混戦が予想された7人ジャンケンに負けた。 グーの群れに、チョキの蹄。 暫しの静寂の後、トナカイの潤んだ瞳に、一同凍りついた。 「い、意地悪したわけじゃないのよ、チョッパー!」 すかさずナミがフォローを入れたが、チョッパーは蹄をフルフルして、自分の不甲斐ないチョキを見つめて。 その場の凍てついた空気は、ドラムの山頂よりも寒かった、と後にウソップは語る。 ジャンケンの時だけ、人型になればいい、とは。 付き合いの浅さゆえ、誰も気が付かなかった。 「もう一度、やろうぜ」 普段はチンピラだが、ごく一部で「心優しき」と称されるコックが、その場を打開すべく、口を開いた。 その言葉に、何度やっても結果は同じだ、と全員が思った。 自分がグー以外を出せばいいとは、誰も考えもしなかった。 「…い、いいよ、サンジ。オレ、見張りするよ…そしてこれからも、永遠にジャンケンに負け続けるよ…」 チョッパーがコックのズボンを握ると、その硬い蹄を包み、コックは笑った。 「俺が代わりに、戦ってやるよ」 右手は自分。 左手はチョッパー。 コックが常に両手出しをするようになったのは、この時からだった。 「オイ、どっちがボールだ」 「ジャンケンだ」 ジャンケン。 グーチョキパー。 癖で、両手出ししたコックの右手は、グー。 左手は、チョキ。 そして、剣士はパー。 結局、ボールにはコックがなったけれど。 それを見ていたチョッパーは、嬉しくて。 泣きながら笑って、自分の蹄のチョキを撫でた。 ■武器 同じ刃物でも、随分と違うものだ。 殺す刃と生かす刃と。 初めて手に取った剣士の刀は、思ったよりも随分と重たくて。 それは、この男が歩んできた、刺すように苦しい道程と、吸った血の分だけの重さ。 これは、殺す刃。 何も生み出さず、何も省みず。 悲しみと、絶望と、苦痛と。 孤独と、恐れと、敗北を、与える刃。 けれど。 ときに人を守り、ときに夢を与え。 殺すことしか出来ないくせに、ときに人を救う刃。 剣士は言う。 お前の包丁と、俺の刀と。 一体何が違う? 魚の、動物の、命を奪う、包丁。 人の命を奪う刀。 剣士は言う。 道具は道具でしかない。 殺すのは俺だし、生かすのはお前だ。 人の命を繋ぐ包丁。 己の夢を紡ぐ刀。 大切なのは心だと。 己の心こそが、武器なのだと。 剣士は言う。 お前の包丁も、刀と同じくらい、重い。 ■戦い 「地獄の入口でテメェと待ち合わせなんて、真っ平だぜ」 そう言って、サンジは薄く笑った。 額から頬を伝って流れる血液に舌を伸ばし、舐め取る。 口内に広がった鉄の味が、生きているという圧倒的な事実を思わせた。 「天国でレディと待ち合わせならまだしも」 踵を二回、硬い岩盤に打ち付ける。 「クソ剣士と地獄でランデブーは願い下げだ」 「そりゃこっちの台詞だ、クソコック」 この命尽きるまで。 灼熱の体温を背中に感じる限り。 倒れるわけには、いかない。 ■「負けられねぇ」 コックはウソップと仲がいい。 俺と接する時よりも、数倍穏やかで、数倍素直で、数倍カワイイ…ような気がする。 時間があればウソップの元へ近付いて、あんなに全開で笑って、どういうつもりだ。 さっき配られた特製ドリンクだって、よく見たらウソップの分が一番多くて。 俺のグラスには、なぜか氷ばかりが入っていた。 夕飯に出された生姜焼きも、ウソップの方が一枚多かったし、付け合わせのブロッコリーだって俺のはカスみたいなやつばかりなのに、ウソップには立派な小房が。 コックの愛情を測る場合、一番分かりやすいのは食事時だ。 ヤツはプロのコックなので、そうそう人によって差をつけたりはしないのだが、よく見ればほんの少しだけ、その愛情の差が垣間見えたりする。 例えば、ナミのサラダにはプチトマトが2つ入っていたり。 例えば、ルフィのステーキには網目がキレイに入っていたり。 例えば、チョッパーのストロベリーアイスには、果肉が大盤振る舞いだったり。 ウソップに関しては、思わず卓袱台をひっくり返したくなるくらいの贔屓がされていたりするのだ。 なのに。 今まで、一度だって。 俺の皿に、ヤツの贔屓を感じたことはない。 それどころかどうも、見た目も質も、僅かではあるが、一番グレードが低いものを与えられている気がする。 これはなんだ。 どういうつもりだ。 その上、俺が己を高めんと鍛錬しているときに、あのアホコックはウソップとイチャイチャしてやがるのだ。 脇腹を擽られれば、やめろよーぅ、などと笑い転げて抵抗して。 あんなこと俺がやろうものなら、一発で星になるくらい蹴り飛ばされて、二度とこの船へ帰って来られないだろう。 この差はなんだ。 言っておくが、コレは嫉妬ではない。 扱いの不当さについて、俺なりに不満を感じているだけだ。 たまにでもいいから、俺の皿にケチャップでLOVEと書け、などと言っているわけではない。 ましてや俺に擽られて、ヤダそこ俺弱ェんだよぅ、などと言って欲しいわけでもない。 ただ単に。 俺とウソップと、コックの中で何が違うんだと思うだけだ。 確かに俺は、ウソップみたいに、いつでも朗らかで優しいわけじゃない。 ウソップはアレで中々見上げた根性のある男だと、認めてもいる。 だが。 ウソップの何がそんなに、コックを惹きつけるのかは、分からない。 アイツにあって、俺にないもの。 俺にあって、アイツにないもの。 それはなんだ。 なんなんだ。 チキショウ。 ウソップには、負けられねェ。 「オイ、サンジ。またゾロがこっち睨んでるぞ」 「ヤキモチ焼いて、カワイイだろ。思わず苛めたくなっちまうよな」 ちょっぴり分かり辛い贔屓がされていることに。 ゾロは、全然気付かない。 ■出会い 記憶は曖昧。 気付いた時には、小さな体をコックコートで包んでいて。 その船との始まりは、よく覚えていない。 客船オービット号。 誰も俺を、チビナスだなんて呼ばなかった、夢の豪華客船。 いつものように起床して、見慣れた厨房へ足を向けて。 昨日と同じ一日が、その日もまた当たり前のように繰り返される。 馴染みのコックたちに揶揄われたり、食材の図鑑に目を通したり。 イモの皮剥きや、野菜の下茹で。 運命なんて言葉など、知るよしもなかった、あの頃の俺。 守られて、幸せで。 夢だけは一丁前な、ただのガキでいればよかった。 記憶は鮮明。 可笑しなカタチの、夢の結晶。 ジジィとふたり、長い間黙ってその船首を見上げていた。 海上レストランバラティエ。 蹴られて罵られて、笑われて。 誰も俺を、ガキだと扱わなかった。 焼き物から煮物、スープからデザート。 メインを任されたのは、随分と後になってからだった。 料理と乱闘だけに明け暮れて、体ばかりがデカくなって。 早く大人になりたくて、いつも粋がり、斜に構えていた。 夢なんて言葉など、生ゴミと一緒に捨ててしまった、あの頃の俺。 暴れて、叫んで。 腕を磨くことだけに集中する、ただのコックでいればよかった。 記憶は燦然。 間抜けな羊と、はためく麦わら。 漕ぎ出す強さは、足を踏ん張っていないと置いていかれそうな。 海賊船ゴーイングメリー号。 気のいい仲間、美しい航海士。 限られた食材から捻出する三度の食事。 誰も俺を、ただのコックとして扱わなかった。 時には戦闘を、時には略奪を。 時には冒険を、時には夢を。 そして愛する仲間に、最高の食事を。 駆けて、翔けて、賭けて。 止まることなく、緩まることなど知らず。 俺はここで、夢だけを追う、ただのバカな男でいればいい。 ■涙 サンジくんの煙草は安定剤。 銜えて、慣れた手つきで火を点けて。 吐き出す煙は風に乗って、一体どこまで届くのかしら。 手持ち無沙汰で口寂しくて。 間の取り方を、煙草でしか紛らわせない不器用な人。 本当のココロを見せる代わりに、あなたの煙は雄弁に語る。 嬉しい時はハート型。 楽しい時は元気良く。 怒った時は荒々しく。 寂しい時はゆらゆらと。 白い煙は絶えることなく、けれどこの船の中には留まらず。 風に乗って、どこかへと。 まるで、俺はここにいると、誰かに狼煙を上げているようね。 ぼんやりと遠くを見詰める彼の背中。 煙がゆらゆら、纏わりついては流れていく。 ねェ、サンジくん。 寂しいなら寂しいって言って。 悲しいなら悲しいって言って。 あなたひとりくらい抱き締められる胸は、私にもあるのよ。 あなたの煙、今日はとても泣いてるわ。 ■技 「おいウソップ」 コックが煙草を燻らせ笑っている。 これは良くない。良くないことが起こる。 そう直感し、ウソップは軽く5メートルほど後退った。 「なななななんだ」 「イヤ、お前いつも新しい技を研究してるだろ?俺もちっと見習おうと思ってよ」 「そそそれと俺とどういう関係が…!」 「試させろ」 「ヒ!」 革靴の先を鼻の下に付けて。 そのまま蹴り上げる。 「ミュゾー!」 哀れウソップは鼻から空中に吹っ飛び、白目を剥いて海へ着水した。 「…イマイチだな」 コックの低い呟きは、海の藻屑と消えたウソップには聞こえない。 「やっぱアレか」 思い直してコックは次のターゲットの元へ向かった。 ターゲットは気持ちよくヨダレを垂らして甲板で熟睡している。 これはちょうどいい。 コックは張り切って新技(仮)をブチかます。 「アニメル!!」 「ぐは!!」 寝たマリモさえも一撃で起こすこのパワー。 想像しただけで背筋が凍るほどの衝撃。 これだ。これしかない。 新技レシピに書き加えよう。 そうコックが頷いた瞬間、蹲ったマリモが、罵声を絞り出した。 「テメ、そりゃ金的じゃねェか!反則だろ!」 「戦闘に反則もクソもあるか」 「テメェにゃプライドっつーもんがねェのか!」 ミュゾー=鼻 アニメル=仔牛の睾丸 どこまでも迷惑なコックのレシピ。 |