キャプテンウソップここに死す


俺は勇敢なる海の戦士だからして。
例え如何なる危険が潜もうとも、この扉を開けねばならない。
何故なら今、俺の8千人の部下達が、一斉に飛び出そうとしているからだ。
晩飯に食ったニラが、部下達を発奮させた。
ニラは身体にいいのだ。食った次の日には、体内の汚れを一気に排出させてくれるのだ。
だからナミなんか、もっとニラを食うべきだ。
そのフン詰まりと一緒に、強欲もトイレにポイ出来るだろうから。
俺の身体は元々汚れなんか溜め込んでなくて、なのにニラのヤツは、俺様の身体にもよく効きやがる。
ああ、もう勇ましい部下達が暴発しそうだ。見ろ、この脂汗。
俺様の部下を暴れさせる為には、この扉を開き、そして面倒臭いオーバーオールをずり下げる時間的余裕が必要なのだ。
早くしないと大変なことになってしまう。腹の中で大戦闘が繰り広げられるどころかパンツの中で大乱闘が起きてしまう。それだけは何としても避けなくては。
俺は意を決して、とうとうドアノブに手を掛けた。
だがそれを捻る勇気がイマイチだ。
何しろ中から、獣のような呻き声が絶えず聞こえてたから。

『あ…う…もう…』

もう。もうって牛か。牛がいるのか。これはコックに知らせねば。明日はスキヤキだ。

『もう…や…』

もうや。もうやさんか。それは誰だ。そんな名前のクルーはこの船には乗ってないはずだ。侵入者か。それは危険すぎる。

『タスケテ…』

ナント!誰かが中に拉致監禁中なのか!?
男ウソップ、ここで引くわけにはいかねェ。だがむしろ俺の方がタスケテ欲しい感じでもある。
ああ、もう駄目だ。もう部下達を抑えることは出来ない。
これ以上押さえつけてたら、奴等はキレて本当に暴発してしまう。

『痛ェよぅ…』

俺も痛い。腹が激しいリズムでサンバを踊ってる感じだ。
俺は遂に決意した。
この扉を開くのだ。
その先にどんな魔獣が腰を振っていようとも。
金髪の悪魔が足を開いていようとも。
もう俺様を止めることは、誰にも出来ない。
と、突撃!
俺は震える拳で、力強くノックを3回した。
返事はない。
だが怯むわけにはいかねェんだ。

「は、入るぞ!」

素敵に裏返った俺様のナイスボイスが、風呂場に響く。
恐ろしい光景を目の当たりにしないよう、俺は浴槽から視線を逸らし、真っ先に目的地である便器を見詰めた。

「な…!」

予想は外れ、そこにはシトドに泣き濡れる金髪の悪魔の姿が。
その顔は上気して、蒼い目は潤み、唇はまるで果実のようにたわわで。
そんな如何わしい顔をして、金髪は俺と目を合わせた。

「ウソップ…」

「サンジ…」

「痛ェ…ウソップ、タスケテ…」

もしも魔獣に襲われていたのだったら。
俺様も、こんな縋る様なコックを放ってはおけなかった。
だけど。

「ニラが…ニラがよぅ…」

スラックスを膝までずり下げて、便器に腰掛けたコックは泣き濡れる。

「俺はもう…きっと一生便器から離れられねェんだ…ここで死ぬんだ…なァ、ウソップ…ここにキッチン作ってくれねェか…?俺は例え便所で暮らそうとも死ぬまでコックさ。上半身は食い物を作り出し、下半身は食い物を無駄にするのさ…こんなところで暮らしてちゃ、ナミさんはきっとお嫁に来てくれねェな…でもせめて、最期の最期まで俺は、お食事を作って差し上げてェのさ。色とりどりのフルコース…上等のワイン…給仕して差し上げられねェのが心残りだが…優しい女神は、きっと俺に微笑んでくれるはずさぁ…そしていつか俺がここで息絶えたら、なァウソップ、ささやかでいい。ここに墓標を立ててくれ…天才コック、ここに眠る…」

「天才コック、下痢で死す」

「ぬぉ!またビックウェーブが…!!」

他人の前で平気でクソするコックを、俺は心底男らしいと思った。
コックがここで暮らすなら、どこかにもうひとつ便器を設置せねば。
そしてそこでは俺様が、このコックと同じ運命を辿るのだろう。
ああ、勇ましき部下達よ。
この愛しいコックに免じて、今日のところは引き下がってはくれまいか。
もうひとつ便器を設置する、その瞬間まで。






ニラは便秘にいいそうです。
ぷっすまでユースケが言ってました。