すき、きらい、すき |
ナミは明け透けな女だ。 男に囲まれていた時間が長いせいか、巷の女より随分と付き合いやすい。 さっぱりした気性と、小さなことには拘らない気風の良さ。 あいつは裸を見られることや、女として男には知られたくないことも、別段何とも思っていないようだ。風呂場にも鍵を掛けないし。 だからといって現場に踏み込めば、殴られるし借金は上乗せされる。 けれどその後妙に意識して顔を赤らめたり、文句を言ってきたりはしない。 それは多分、ナミが俺を男だと思っていないからだ。 そして自分のことも、俺の前では女だと思っていないのだろう。 だが。 どうも、コックの前では違うらしいのだ。 観察の結果、ナミはコックの前で、下世話な話をしたりしない。 酔っ払ってパンツを見せたりしない。 コックが入ってきそうな時間には、風呂場に鍵も掛ける。 これはどういうことだ。 コックは常日頃から、ナミを女神のように崇めているし、ナミもそれを利用してコックをいい様に使っている。 奴らの間に、男女の機微というか、恋愛カンケイは見て取れないのだが。 だが。 どうもナミの奴は、コックを男だと思っているらしいのだ。 そしてコックも、ナミを女だと思っている。 だからナミは、コックの前では自分が女だと常に意識している。 何だか少し、面白くない。 ナミさんは俺の女神だ。 天使で女王様で世界一の航海士だ。 美人だし、スタイルも抜群で、なのに気取ったところがない。 俺はどんなレディも心から愛しているけれど、ナミさんは特別だ。 一目惚れ、というやつかもしれない。 恋愛なんて全て一目惚れから始まる、というのが俺の持論なのだけど。 ナミさんはやっぱり特別で、出会った瞬間に心が吸い寄せられた。 俺は一生ナミさんに尽くすんだ。 尽くして尽くして、そして報われないのが、イイ。 ずっとナミさんの傍にいて、いつかナミさんが他の男に奪われていく時、この世の終わりみたいに号泣して。 そんな俺に、ナミさんは幸せそうに笑いながら、バカね、と言ってくれるのだ。 バカねサンジくん。大好きよ。 ナミさんはそう微笑んで、俺はやっぱり泣き続けるだろう。 でもそれでいい。それがいい。 ナミさんは俺に、片想いの切なさと喜びをくれる。 それ以上、なにを望むもんか。 なのにあのクソ剣士ときたら、俺の女神と平気でケンカしたりするのだ。 ふたりの言い争いは、大抵ナミさんが一方的に勝利して終わる。 クソ剣士を前に仁王立ちして怒鳴り散らすナミさんは、なぜかいつも少し楽しそうで。 受けて立つクソ剣士も、仕方ねェな、と言った風情で応戦して。 そしてケンカをした夜は、必ず甲板でふたり、酒を酌み交わす。 それはまるで兄妹のような。 立ち入る隙のない戦友のような。 ふたりの間に恋愛感情はないのだろう。 それは見ていれば分かる。 けれどクソ剣士の前で、安心したようにハメを外すナミさんの笑顔とか。 文句を垂れつつ最後まで付き合って、酔っ払ったナミさんを部屋まで抱きかかえるクソ剣士の優しい目とか。 何だかかなり、面白くない。 ゾロって、どうしてサンジくんにだけあんな態度取るんだろう。 ルフィには、信頼を剥き出しにして、かなり素直だし。 ウソップやチョッパーには、兄のような、父親のような大人びた態度を見せる。 私には、対等の仲間として、最高の扱いをしてくれていると思う。 でもサンジくんには、必要以上に敵意を向けて、必要以上に冷たい。 サンジくんもサンジくんで、ゾロの前では、いつもの気取って大人びた態度を一変させるし。 最初は、本当にこのふたり、上手くいかないんじゃないかって心配した。 ことあるごとに刀と足が出るし、会話だって少なくて、たまに喋ってもそれは、乱闘へ繋がる切欠でしかなかった。 でも、いつからだったかしら。 ふたりがケンカを終えたとき、妙にスッキリした顔をして、何事もなかったように振る舞うことに気付いたのは。 それは確か、ふたりが同い年だと知った頃だったように思う。 ゾロとサンジくんは同い年で、お互いに大人振らなくてもいい相手だったみたい。 子供みたいにケンカして、言いたいことを言い合って。 あれは、ふたりだけのコミュニケーションなのだろう。 その証拠に、ケンカの回数を積み重ねただけ、ふたりの距離は随分と縮まってる。 ケンカをしている時は、サンジくんも夢中になっていて。 私が傍にいても、気付きもしない。 目の前の憎たらしいマリモしか、彼の眼中に入っていない。 そしてゾロも、目の前のアヒルしか、きっと目に入っていないのだろう。 それってまるで、恋愛しているみたいだわ。 何だか、もの凄く面白くない。 でも。 そんなふたりを見ているのも、悪く、ない。 |
玉砕サナゾ…
ありがとうございましたv