未来予想図


一体いつまで待てばいいのだろう。

苦難の末に辿り着いたオールブルーで、小さなレストランを開店させてから、もうどれだけ経ったのか。
ひょろりとした大食い船長は立派に海賊王になり、麗しい航海士はその傍らで世界地図を書き上げて。
その中にはもちろんオールブルーの位置すらも書き込まれて、昔の仲間たちが次々と夢を叶えるのを見届けた後、サンジはあの船を降りた。
ただひとつ、剣士の夢だけが残った、あの船を。
世界地図が完成するほどに隈なく世界中を旅したというのに、剣士の目指す至高の大剣豪に巡り会うことは、終ぞなかった。
それでも剣士は諦めず、海賊王となった船長も、世界の海を手に入れた航海士も、剣士のために一心不乱、鷹の目と呼ばれた大剣豪の情報を掴んでは、その後を追った。
しかしサンジはそれに付き合うことなく船を降りた。
いがみ合ってばかりいたあの剣士が、命を懸けて一世一代の大舞台に立つ姿を、是非とも見届けたいと思っていたのに。
もう何周目かになろうかというグランドラインに入ったとき、剣士はサンジに言ったのだ。

お前はもう、降りろ。

何故、とか。
俺の勝手だ、とか。
喉元まで出掛かったそんなサンジの反論を、剣士は許さない口調で繰り返した。

俺に付き合ってると、お前の夢まで逃げちまうぞ。

オールブルーを見つけた夜、剣士と酒を呑んだ。
体は宴会の後で気怠くて、けれど心は昂ったまま、寝付くことが出来なかったサンジに、剣士は黙って付き合ってくれた。
ここで、レストランを開きたい、と。
今すぐじゃなくても、必ずここで、自分の店を持ちたいのだ、と。
しつこいほどに繰り返したサンジの言葉を、剣士は子供を見るような優しい目で聴いてくれた。
きっと、あの言葉たちが剣士の心に知らず根付いていて。
だからこそ、剣士はサンジを下船させた。
本心を言えば、どうしても剣士が夢を叶えるところを見たかったのに。
それでもサンジは剣士に逆らうことなく、その周回で船を降り、オールブルーに留まった。

あの剣士とサンジの間には、仲間という絆以外、何ひとつなかったけれど。
サンジが船を降りるとき、剣士がくれた一言に、何かを期待してはいけないだろうか。

また、メシ食わせろ。

それは、再会の約束だろうか。
あのときの剣士の目が、ひどく切なげだったのは思い過ごしだろうか。
あの一言に囚われたまま。
サンジの時間は、未だ動き出していなかった。

一体いつまで待てばいいのか。

答をくれる人間は、まだ来ない。
けれど自分で答えは出せない。
あの一言に応えるために、それだけのために。
ここで、サンジはコックを続けていなくてはならないのだった。

けれど、今日。



「ヨォ」



待ち望んだ声が、サンジを呼ぶ。
これは夢じゃなくて、現実の。

「メシ、食わせろ」

緑の髪、3連ピアスに3刀流。
何ひとつ、約束を交わしたわけではなかったけれど。

「随分待たせちまったな」

笑った顔は、懐かしくて、切なくて。

「晴れて大剣豪だ」

誇らしげに、腰の刀に手を置いた剣士を、ただ見詰めて。
返す言葉を探して、探して。
けれどどれもうまく言葉にならず、たった一言、だけ。






「老衰の鷹の目に勝って嬉しいかクソマリモ!!」






あの鮮烈な冒険の日々から、30年。

「お前も老けたなー」

「テメェもな!」

昔みたいに、どつき合う。
長年の立ち仕事で痛む腰をトントンと叩きつつ。

「お前は腰か?俺は50肩だなー。あと歯もヤベェ」

「バカお前、やっぱ3刀流はもうキツイだろ。そろそろ総入れ歯だな大剣豪」

「あー」

サンジの時間は、ようやく今、剣士と一緒に動き出す。



5年後とか10年後は、萌え過ぎて書けませんでした。