Whose turn is it? ≪7≫


穏やかな波に揺られて、陽の光を一杯に浴びた、いつものゴーイングメリー号。
羊の船首は相変わらず間抜けで、愛らしい。

「あれ?」

目を開けたルフィは、自分がいつもの特等席に横たわっていたことに気付く。

「メリー?」

羊の顔を覗き込み、危うく海に落ちかけて。
うわわ、と喚いて、そして。
にっこり、笑った。
いつもの、無敵な船長の顔で。

「ナミ!帽子!」

そのまま自慢のゴム腕を伸ばし、一直線に、キッチンへと飛び込んだ。
開いてはいるが、ドアが壊れていない、いつものキッチンへ。



最初に口を開いたのは、飛び込んできたルフィだった。

「オウ!腹減ったぞ、サンジ!」

その言葉に、床に座り込んでいたクルー達は、同じように呆然とへたり込んだコックの姿を見つける。

「帰ってきたの…サンジくん…」

「ウン…ナミさん…」

お互い思考が働いていない顔で見詰め合い、それからハッと、己の体を抱き締めた。

「生きてる!!」

「帰ってきた!!!」

その光景をボンヤリと眺めていたウソップは、いいなアイツら俺はまだ石だぜ、などと思い、固まった体を横たえたまま動けなかった。

「ウソップ!戻ったんだよ!俺もトナカイに戻ったよ!食われなくて済んだ!!」

「オウ揺らすなチョッパー…俺様はもう身も心も石なのさ…石像は船首に飾ってくれ…いつまでもお前らの旅の安全を見守ってやるさ…」

「アンタ、どこが石なのよ」

ペチン、と頭を叩かれ、ウソップは喋っていた自分に気付く。
気付けば体の強張りも解けていき、飛び起きた体は、人間そのもの。

「もももももももも戻ったー!!!!!」

「ウソップー!ヨカッター!!!」

ウソップとチョッパーは抱き合い、涙を流して狂喜した。

「ゾロ!アンタが上がったのね!?」

ナミが珍しく邪気のない笑顔でゾロを褒めようとすると、ゾロは顔を顰めて、フルフルと首を振った。

「よく見ろ」

指差したのは、すごろく盤。
呪われた、禍々しい、忌々しいすごろく盤。

「これ…」

一同が覗き込むと。
ガラス玉の上に、薔薇の駒が堂々と立ち。

"ジュマンジ。ゲームセット"

そう映し出して、それきりガラス玉は沈黙した。

「よく上がったな」

感心を通り越して、最早脅威とも言える強運を発揮したロビンは。
ゾロが目を丸くして自分を見るのを、擽ったそうにかわして。

「勝負と名のつくものに、負けたことがないのよ、私」

かつてカジノの支配人をしていた女は、そう微笑んだ。
彼女の足元に、2つのサイコロが転がっていた。
6と6。
ようやく経緯を理解したウソップは、ロビンに尋ねる。

「6と6のゾロ目…2回連続で出したのか…?」

「そうでなきゃ、上がれないでしょう?」

妖艶に笑んだ顔に、ウソップは足がすくんだ。
なにより恐ろしいのは、ゲームでも石になることでもなくて。
この女を、敵に回すことだ、と。

「ああああああ〜!会いたかったよナミさんロビンちゃん!!怪我はない?お腹空いたろ?」

「あ、うん、ケガとか全部治ってるみたい…て言うか、最初から何もなかったの、かな…?」

ナミが足を擦り、傷ひとつない自慢の足のままでいることを、何よりもサンジが喜んだ。

「ナミ!帽子!」

「あ、ああ…あれ、なんで私がこれ持ってんの?」

「そりゃお前、ルフィが…え、何だっけ」

「そう言えばサンジくんとゾロ、何で手繋いでるの」

「ええ!?これは、その、あの……何でだ?」

「さァ…」

繋いだ手をシゲシゲと見詰めながら、それでもゾロは決してその手を離そうとはしなかった。

「記憶が薄らいでいくみたいね。今朝見た夢を、忘れるように」

ロビンが言った。
そう。
今や、あの恐怖を肌で覚えている者はいなかった。
悪夢から覚めた、穏やかな朝のように。
それでも。
このすごろく盤を、忘れたわけではなく。

「捨てちまおう。もう誰も、拾ったりしねェように」

ウソップの言葉に、全員が頷いた。
駒とサイコロを収納したすごろく盤は、硬く硬くロープで縛られ。
砲弾を3つ、重石にして。
全員が見守る中、ルフィとゾロが甲板から、遠く、遥か彼方まで投げ飛ばして。
波飛沫を上げながら、ジュマンジは海の底へ、沈んでいった。

「なァ、ロビン」

それを見詰めていたウソップは、隣にいたロビンに問いかける。

「ゾロ目2回ってことは…1回目のとき、何か起こったんだろ?何があった?」

そう、ゾロ目2回で上がりを出したロビンだが、1回目の悲劇は避けようがなかったに違いない。
しかしロビンは、目線をジュマンジが消えた海面から離さないままに、首を振った。

「覚えていないわ」

その言葉が本当かどうか、ウソップには分からなかったけれど。

「サンジ!メシー!!!」

「ウルセェ元凶!今度変なモン拾いやがったらメシ抜きだぞ!」

笑い声が、戻った。
いつものゴーイングメリー号。
昨日までと少し変わったのは。
剣士とコックが、ほんの少しだけ仲良くなったように見えること、だけ。
7人は明るく笑い合いながら、その日も楽しく、食卓を囲んだ。





太鼓の音は鳴る。
海底で、次の生贄を待ち焦がれながら。
人を引き寄せる、誘惑の重苦しい太鼓の音。

ジュマンジ。




end..........?


お疲れっしたー!!
書いててこんなに楽しかったのは初めてです。
お付き合いくださった皆様に、心からラブを。
え、ロビンを襲った一回目の悲劇が気になりますか?
…ウフフ、それはまた、いつか。

→続編が本になりました。