タイムカプセル


いつか、世界地図を書き上げた私へ。

私はあなたを、尊敬と憧憬を込めて想い、筆を執っています。
今もあなたは海の上を彷徨っているのかしら。
いいえ、彷徨うなんて言い方は、あなたに相応しくない。
世界地図を手に入れたあなたには、もう見知らぬ海などないのでしょうから。

一体どれだけの歳月を重ねて、今の私があなたになれたのか、今は想像もつきません。
もしかしたら、あなたの髪はもう白くて、肌にも深く皺が刻まれているかもしれない。
けれど私はあなたに憧れてやみません。
あなたになるために私は生きて、走って、この海にいるのですから。

あなたは知っているのでしょう。
私の船長が、海賊王になったことを。
私の剣士が、大剣豪の称号を手に入れたことを。
勇敢な海の戦士の成長を、万能薬となった奇跡の船医を。
あなたの地図にはオールブルーさえ書き込まれて、真実の歴史を考古学者と共に目の当たりにしたのでしょう。
あなたの地図が完成したのは、きっと一番最後。
私の夢は、みんなの夢の航跡を辿って辿り着くもの。
だから私は今日も、みんなの夢の行き先に舵を取っています。

あなたは覚えているかしら。
旅先で出会ったたくさんの人たち。
灼熱の砂漠、白い海。
空色になびく長い長い髪。
出来ることならもう一度会いたいと、会って抱き締めたいと思う願いは叶ったのでしょうか。

今はまだ振り返ることはしたくないけれど、あなたがいつか今の私を振り返っても、誇れる私であるように、私は一層の努力をします。

今、あなたのそばには誰がいますか?
海賊をしていたことなんて、もう過去の話ですか?
故郷のオレンジ、潮の香り、騒がしくも楽しい冒険の日々。
得たものは大きくて、それでもまだ、足りない。
欲して、求めて、そしていつかあなたに辿り着く。
今はまだ、夢の途中。
あなたは私という地図を作り上げるための、重要な指針です。
どんなに迷っても、立ち止まっても。
私が私である限り、あなたに辿り着いてみせる。
だから、どうか。
あの頃は良かった、なんて思うあなたじゃないといい。
若い頃の自分を思い出したとき、稚拙で一生懸命過ぎて、思わず赤面して笑っちゃうような、そんなあなたであるといい。
願わくば、偉大な海に身を置いて。
愛するものに囲まれて、今日も波に揺られるあなたでいて欲しいと願います。

お誕生日、おめでとう。
お互いに、ね。

いつか、世界地図を書き上げた私へ。
若輩のあなたより、愛を込めて。





「ナミー!何してんだ早く来い!」

「ナミさーん!スペシャルディナーができたよォー!」

私を呼ぶ声。
賑やかな食卓、愛しい仲間たち。
誘われて、私は小さな箱を埋めたミカン畑をあとにする。
キッチンでは、勢ぞろいしたみんなと豪華な食事。
色とりどりのリボン、楽しいパーティの予感。
私の居場所、かけがえのない場所。

こうしてまたひとつ、歳を重ね。
こうしてまた一歩、あなたに近付いていく。

「ナミー!誕生日オメデトー!!」

波に揺られた分だけ、あなたへ近付いていく。




遅れすぎナミ誕。