ゴム船長の独裁国家


ゴム船長には「フツウ」がない。

♪男の子と違う女の子って スキとキライだけで フツウがないの♪

昔どこかで聴いたような歌だが、それはこの際どうでもいい。
しかしその歌詞のように、我らがゴム船長ルフィには、「スキ」と「キライ」だけで、「フツウ」はないのだった。
比率でいけば、圧倒的に「スキ」が多い。9:1といったところか。
その中でも「スキ」は3段階に分かれていて、「スキ」「大スキ」「アイシテル」という言葉がそれに該当する。
例えば。
ルフィは野菜が「スキ」だ。魚が「大スキ」で、肉を「アイシテル」。
ついでに言うと。
サンジの眉が「スキ」で、足が「大スキ」で、腕を「アイシ」てたりする。
他にもウソップの長っ鼻は「アイシテル」し、チョッパーの青っ鼻が「大スキ」で、ゾロの緑髪が「スキ」なのだった。
食事に関するもの、面白いもの、強いもの。
みんな、みんなルフィは「スキ」なのだ。
だから、彼の日常はひどく楽しい。
自分がゴムなのは「アイシテル」し、GM号の船長であることを「アイシテル」し、仲間達を「アイシテル」し。
通常の航海を続けている間は、彼には何一つキライなものがない。
GW号には基本的に、彼の「スキ」なものでないと乗ることが出来ないからだ。
ルフィの「スキ」で成り立っているこの船は、ある意味彼の独裁国家であるといえた。
しかし、ひとたび敵船が現れたり、上陸したりすると、ルフィにも「キライ」が生ずることがあった。
多くは「悪人」と呼ばれる、救いようのない者たち。
だが彼らに関しては、ブッ飛ばせば気が晴れるので、ルフィはあまり気にしない。
執拗に追ってくる海軍にしても、彼らには彼らの正義があり、その信念に基づいた行動をしているのだから、ルフィは寧ろ「スキ」なのだ。
では。
何が彼の「キライ」なものなのかというと。





「またやったのか、サンジ」

ルフィが暴れるでもなく叫ぶでもなく、こうして低い声で名前を呼ぶときは、ひどく怒っている証拠だ。そして、同時に哀しんでいるのだ。
それをよく知るだけに、呼ばれたコックはおとなしく俯いた。

「キライだぞ、サンジ。キライだ」

コックはますます俯き、一言、ゴメンと呟いた。

「ゴメンで済まなかったらどうするんだ」

「…ウン…」

「俺からサンジを奪うつもりか、お前は」

デコピン、一発。
ゴム船長が何よりキライなのは、仲間を奪われること。
それが例え、「犠牲」という名で、自らを差し出したのだとしても。

「二度とするな。もう、絶対するな」

与えることが得意なコックは、時に自分自身さえ、簡単に与えてしまう。
優しくて、強くて、弱いから。

「ウン…ルフィ、ゴメンな。もう、しねェからさ。だから」

「だから、今夜は肉だぞ、サンジ!」

「…オウ」

はにかんだコックは、いつもの、ルフィが「アイシテル」コックだ。
そして。
コックもまた、ゴム船長が「大スキ」で。「アイシ」てて。
彼の笑顔の為なら、今夜はありったけの肉を出そうと心に決めた。





そんな、独裁国家。
コックに巻き付く船長に、苦虫潰す剣士もまた、忠実なる臣下のひとり。






最後の一文で辛うじてゾロサンぽくしてみる。
フツーにしてるとどうも、私はルサンを書いてしまう傾向がある。
ちなみにコレ、「黒いシャツ」のチクり編です。