待ち焦がれベイベ


ゾロが東京の大学へ行ってしまってから、月日は流れまくって、もう二度目の春。
サンジは詰襟姿もすっかり板に付いた、ピチピチの中学三年生。
幼馴染で大好きだったゾロを思い出さない日はないけれど。
大学に進学してからというもの、一度も帰ってこない親不孝者なんて、サンジは嫌いなのである。
お隣のおばちゃんは、若くて美人で働き者。けれど何といっても母ひとり子ひとりなのだ。
頼りにしていないはずがない一人息子の不義理に、おばちゃんに代わってサンジは怒っている。
そう。
この二年で、サンジも随分と変わった。
お隣の幼馴染にベッタリだった幼少期に別れを告げ、気の合う同級生との付き合いはそれなりに楽しく。
日ごと胸が膨らんでいく同級生のレディも、まだ固い蕾のような後輩の少女達も、サンジの生活に彩りを添えてくれる。
だからもう、あんな不義理者のことなんて忘れるのだ。
ガタイが良くて強面で。
無口で無愛想でデリカシーの欠片もないあのマリモ。
ちょっと優しかったり、ちょっとセクシーだったり、ちょっと近所でも未だに評判の好青年だったりもしたけれど、それもこれも、この際忘れてやるのだ。
思い返してみれば、アイツがサンジにしていたことは、紛れもなくイタズラで。
まだイタイケな小学生だったサンジに、あんなことやこんなことまでして下さりやがった。
思いっきり合意の上でだろうが今も思い出すたび興奮してしまおうが、キッチリ、イタズラはイタズラなのだ。
これ以上帰ってこないようなら、強制ワイセツ罪及び幼児虐待で訴えることも辞さないぞ…と、サンジは決意している。告訴、告訴で裁判である。

だって、もう二年だ。
いくらなんでも、こんなに放っておかれたら。
アレもコレも、全部性欲任せのイタズラだったのだと、思えてくるではないか。ゾロのアホ。

サンジは悩み嫉みも青春のうち、な思春期真っ只中であった。




「オウ、サンジ。やっとお前の番だぜ」

そう言って同級生から渡されたのは、世にも淫らなオトナの御本。
誰かが兄貴だか親父だかの愛用品(愛蔵品、ではない所がミソである)を持ち出してきて、クラス中、いや学年中の男子を一回りしているシロモノである。
順番待ちの列に並んだ覚えはなかったが、表紙のレディがあまりにサンジを挑発するので、サンジは速攻でその本を受け取り、学ランの下に匿った。
学年中を回っているだけあって、所々ヨレていたりカピカピだったりして、非常にゲーッな感じではあるが、それはそれ。
中学男子は性欲と好奇心には勝てないのである。
もちろんサンジも人並み以上にお年頃だったので、授業が終われば全速力で家へ帰り、すでに期待で半勃ちになった股間をカバンで隠しながら、転がり込むように自室へ辿り着いた。
もう、頭の中はレディのアソコでイッパイで、もどかしく制服を脱ぎ捨てる間も股間が張り詰めてとても痛い。
一方でココロの中の冷静な自分が、こんなのはみっともない、何息切らしてんだ俺は、と突っ込みを入れてくるも、性衝動は止まらない。
サンジは全裸オナニー派なので、兎にも角にも服を全て脱ぎ、一番寛げる格好でベッドに落ち着いてから、ようやく例のエロ本を手に取った。
そしてワクワクしながらページを捲った次の瞬間、サンジは盛大な音を立てて、本を閉じてしまったのだ。

「ううううう裏モノだなんて、聞いてねェぞ…!」

全開も全開。
巷のオヤジが観音様だとか有難がって拝む女性のアソコに、少年らしい夢を見ていたサンジの妄想は、脆くも崩れ去った。
「黒ッ!」
黒かった。物凄く。
なんてなんてグロテスク。
哀れサンジの昂った股間は、一気に萎えてしまったのだった。

大好きなレディ達全てにあんなモノが付いているのかと思うと、果てしなく落ち込みたい気分になったが、もしかしたらたまたま見たページのレディのアソコがたまたまグロかっただけかもしれない。
萎えた股間はひとまず置いておいて、サンジは人体について学習するような敬虔なキモチで、ベッドの上に正座する。
そうだ、きっとたまたまだったに違いないと、サンジは気を取り直して再び禁断の書に手を出した。
だが意を決して捲ったページのレディのアソコも、やっぱり黒くてグロくて。
サンジは半泣きになりながら、イカン、このままではレディとベッドを共にする甘酸っぱい夢が叶わなくなってしまう!と、意地でページを捲り続けた。
童貞青少年には少々刺激が強すぎる局部のアップが続いた後、いよいよエロ本は挿入生本番なるページに突入する。
男優さんのイチモツがレディのアソコに飲み込まれる様は、まるでイソギンチャク状のエイリアンに食される哀れなマツタケを思わせたが、同じイチモツを持つ身として、ああココに挿れたらキモチイイんだろうな、と思えば、ムラムラと再び気持ちが昂ってきた。
それにしてもこの男優さん、立派なイチモツをお持ちである。
つい最近ようやく皮が剥けて、名実共にお役立ちになった自分のイチモツにもそれなりの自信があったのだが、イヤハヤ、ここまで立派ではない。完敗だ。
レディの局部を見たのも初めてだったが、同性の股間、しかもエレクト状態を見たのも、サンジは初めてだった。
思いのほかグロかった女性の局部よりも、見慣れた同性の局部に目が行ってしまうのは、この際責められることではない。
ホウホウ、と男優さんのお宝をじっくり拝見させて頂いた後。
ふと、思考があらぬ方向にズレてしまったのは、サンジのせいではないだろう。
サンジは思い出してしまったのだ。
あの、イタズラ。
幼馴染のゾロと数え切れないくらいした、ふたりのヒメゴト。
いつもサンジを一方的に気持ち良くさせてくれたゾロだったが、行為の最中にいつもサンジの背中に当たっていた、あの硬いナニか。
アレは、アレは。
ひょっとしなくても、どう考えてもゾロのイチモツだった。
けれど、サンジが与えられる快感に喘いでいる間も、ゾロは決して自分の欲を押し付けてきたりはせず。
実は、サンジはゾロの勃起を直接見たことがなかったのだ。
もちろん風呂にはよく一緒に入ったから、通常時の股間は見たことがある。
その記憶からすると、勃起したあかつきには、この男優さんより遥かに立派なご子息をお持ちなのでは…!?
などと、実に様々な思いが去来して。
「…おお!?」
気付けば、サンジの股間は立派に勃起してしまっていた。



お前の傍にいると、お前がもちっと育つまで待てそうにねェんだ


そんときゃ、遠慮なく抱かせてもらう



二年前を思い出す。
東京に行くと言い出したゾロは、ゴネる自分に、確かにそう言った。
あの時の自分は、幼すぎて意味も分からず頷いていたのだが。
ひょっとして。
とんでもない約束を、自分はゾロとしてしまっていた…?
サンジは生唾を飲み込みながら、再び男優さんの股間に目を走らせる。
コレよりも凶悪と思われるゾロのイチモツ。
そんなモノを、自分に受け入れろ、と?
ドコに受け入れるのかとか、そんな瑣末な疑問はこの際二の次で。
サンジは自分がした淫らな約束に、一瞬気が遠のいた。
それなのに。
エレクトしたサンジの股間は意思など関係なしにますます張り詰めてしまって。

「…ゾロに、抱かれる…」

呟いた己の台詞にまで、煽られる。
目に映るエロ本のカラミが、次第にゾロと自分に見えてくる。
あの、ゾロと。
触ってキスしてセックスをする。
あの、ゾロが。
サンジに興奮して、サンジに挿れて、腰を振る。
そして次第に息が弾んで、突いて突いて突いて。
やがてサンジの中で、絶頂を…?

「…ハ…ァッ!」

もう、本など目に入らない。
ゾロに。ゾロと。ゾロが。
止まらない妄想が、いつのまにかペニスを擦り始めた右手に拍車をかける。

ああ自分はこんなにも、ゾロが好きだったのだ、と。
寂しさと切なさと、それを上回る愛しさで。
サンジは腹の上に、白濁を撒き散らした。



ゾロ ゾロ ゾロ 

寂しいよ

早く帰ってきて…




「これ、次誰に渡せばいい?」

「何だよサンジ、もう読破か〜?お盛んですなァ」

同級生はそう言って、笑いながらサンジを揶揄ったけれど。
サンジは無視して、本を返した。
サンジには、もう無用の長物で。
何しろ目下、サンジを一番興奮させるのは、あの幼馴染とのめくるめく妄想なのだから。

自分もこんなにオトナになったよ、と。
今夜あたり、電話をしてみようかと思う。
二年振りに聞くゾロの声は、きっと懐かしくて大好きで。
やっぱり彼を忘れることなんてできないのだろう。
とりあえず、告訴は保留にしておいてやろう、とサンジは思った。




ベイベシリーズはオフラインで出す予定でしたが、
私の根性のなさにより、サイト掲載と相成りました。
次は本懐編です!